前回に引き続き、エリアは大地の芸術祭(越後妻有アートトリエンナーレ2018)が開催されている妻有。 この芸術祭はエリアも広く、様々な378点もの作品があるため、テーマを絞ってみるのがお勧め。
今回の妄想旅人は、スノーボードや雪山で遊ぶこと、とにかく雪が大好きでこの地域に移住してきた30代男性。たまに東京に通いながら越後湯沢のリゾートマンションを拠点にWEBデザインの仕事をしている。カラフルな作品が屋内外に多く展示されるこの芸術祭で雪をイメージする作品を探す。マニアックすぎる趣味に友人はついてこず、一人でのドライブ&芸術祭鑑賞となる。

まず初めに訪れたのは、公式ガイドブックで興味をそそられた津南エリア(美雪町 旧関芳機織工場)に作られたワープクラウドという作品。美しい雪の町、というのもいい。
作家は、メキシコのダミアン・オルテガ。作品紹介のホームページを見てみると、「複雑な線とリズムで織り込まれたカーテンのように、編まれ、重なった作品。作家の暮らすメキシコの神話では、編むことは天国と大地をひとつにする意味があるという」のだとか。
水の分子のような構造に配置し、雲のように浮かぶ作品ともあるが、天国(空)と大地をひとつにする水の分子のようなものは、空から舞い降り、この妻有の大地を白く覆う雪を意味するのかもしれない。(五感で感じる芸術祭は、作者の意図を超えて、受け手が自由に感じることもできる。現在、こちらの作品も雪モードに変換して鑑賞中)

雪降り前にこの地域では身体がぞくぞくするような、冷たい雨が降る。この作品は光の当たり方で、そんな風に見えるときもある。

モノクロで撮ってきた写真の色温度を少し下げてみた。全体的に夕方のこれからこの地が闇に覆われるような、そんな時間帯に雪が降っている様子にも見える。
放射線状の白い球が作り上げるその形は、まるで雪の結晶のようだ。
最初の作品で真夏なのに存分に雪気分を満喫した。ありがとう!大地の芸術祭。
作品名:ワープクラウド
作家名:ダミアン・オルテガ氏(メキシコ)
続いて、中里エリアへ。雪とは直接関係ないが、「風」を感じることができる場所。 目に見えない風を、カーテンを通して可視化した作品。このエリアにはいつも清々しい風が吹く。雪に覆われたこの地の土壌は美しく、空気も風も美しいのだろうと思う。日本では昔から季節季節の風に名前を付けてきた。数日前まで真夏日・猛暑と言っていたが、ここ最近は朝晩が涼しく過ごしやすくなってきた。今吹く風は、秋の初風であろうか。冬の訪れをひそかに感じてほくそ笑んだ。

作品名:たくさんの失われた窓のために
作家名:内海昭子氏(日本)
こちらも、直接「雪」には関係ないのでは?と思うかもしれない。チョマノモリという作品名のモチーフは、苧麻(ちょま)といい、この地域で古くより産業として栄えた織物(縮)の材料になる植物である。自然界に映える苧麻からインスピレーションを得た作者が空想上の生物を地上に誕生させた。苧麻を加工し、越後縮・越後上布という織物を織りあげた雪国に住む人々は、雪さらしという作業を行い繊維の漂白を行った。
チョマノモリを見て、人々は何を感じるのか。
この円は、季節の移り変わりや食物連鎖、循環など生きるためのつながりをあらわしているいるように思える。

作品名:チョマノモリ
作家名:浅井裕介氏(日本)
1日休みを取って芸術祭を回る予定が急な仕事が夕方入り、あまりゆっくりできないため、効率的に作品を見ることができる越後妻有里山現代美術館“キナーレ”へ移動。
真白いキューブは美術館を表しているようで、キューブの周りには木々が立ち並ぶ。

作品名:POWERLESS STRUCTURES, FIG. 429
作家名:マイケル・エルムグリーン氏&インガー・ドラグセット氏
(デンマーク/ノルウェー/ドイツ)
積み重ねられたキューブと同じフロアにある浮遊という作品。遠くからだとまるで粉雪が舞い降りているように見える。ワクワクしながら近づいてみる。まっていたのは雪ではなく、小さな銀紙を家屋の形にきりとったものであった。雪のように家が舞う、不思議な作品は作者のどんな想いが降り積もってできた作品なのであろう。

作品名:浮遊
作家名:カルロス・ガライコア氏(キューバ)
メイク用品が並んでいるのか、薬品が並んでいるのかと見まがうほど、美しい粉末がボトルに入って並ぶ棚を見つけた。 ここには土に魅せられた作家が新潟県内から採取した土が576種類も並ぶのだという。 同じ新潟県内でもこのように色が違うのかと改めて驚かさせる。 大地の芸術祭が開催されている場所の一つ、津南は苗場山麓ジオパークとして日本ジオ―パークにも認定されている。
冬には雪に覆われる雪国の大地の下には、このように豊かな土が存在するのだと改めて感じる作品。

作品名:ソイル・ライブラリー/新潟
作家名:栗田宏一氏(日本)
先ほどチョマノモリにてご紹介した縮の素材、苧麻の葉をデザインに用いたという白いシートが幾重に吊られている作品。 公式HPでこの作品のページの紹介によると、デザインに優れただけではなく災害時の避難所でシートや仕切り、衣服にも利用できる作品なのだそう。

作品名:大地を包む皮膚 十日町文様カラムシ唐草‘13
作家名:眞田岳彦氏(日本)
この地域には、かつて大きな地震があり、大雪による雪害は毎年と言っていいほど起こっている。雪の恵みで生きている地域ではあるが自然は時として人類に猛威を振るう。
現代美術の面白さに触れるだけではなく、この芸術祭では、芸術の中にも助け合って生きる越後妻有エリアの力強さを感じる。
また、次の休みに黄色いパスポートをもって大地の芸術祭に出かけてみようと思う。白い世界を探している間に、多くの興味深い作品も通り過ぎてきた。今度は友人を誘ってきてみよう。