大地の芸術祭の期間が過ぎ、ちょっぴり落ち着いた松之山温泉へ。芸術もよいですが、温泉街の街歩きも風情があって良いものです。
今回の妄想ドライブは、夏枯れした肌に優しいしっとり温泉で足湯と顔湯と全身湯。現実と妄想を織り交ぜながらお届けする本日のドライブのお相手は、今年70歳になる母。 関越道塩沢石打ICを過ぎて山道をぐるぐる松之山温泉へ向かう際の、BGMはザ・昭和歌謡で行きましょう。
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妄想ドライブとは?
旅先は行く人によって決めるもの。この記事では、架空の誰かと旅をしていることをイメージしながらドライブの状況をお伝えしていくものです。
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塩沢石打ICより約50分ほどで松之山温泉へ到着。温泉街入口にある共同駐車場に車を停めて、温泉情緒を味わいながらゆらゆら歩いて5分で松之山温泉里山ビジターセンターへ。
「旅先では、観光案内所でその地域の情報を得るのがいいのよね。」旅慣れた母はスマホやタブレットなどでWEBも駆使しつつ、見やすい紙の案内もこよなく愛すのです。
この日得た情報は、「松之山温泉に3大ご利益すぽっと」のチラシ。さてさて、お散歩開始です。

左手に流れる川の音を聞きながらゆるゆる坂を歩いていると湯けむりがふわっと立つ湯やぐらがあります。それからすぐ、右手にある湯守処 地炉へ。到着していきなりお休み処というのがポイントです。お散歩コースにカフェやお休み処は必須なのです。
先ほどゲットしたチラシによると、ここには足湯と顔湯があるとのこと。足湯や最近は手湯というのも多いですが、顔湯というのは珍しいです。夏の紫外線と風でくたびれた肌にちょっぴり栄養補給をしなくてはと顔湯を探します。そういえば、松之山の人気土産に『松之山温泉ミスト』という化粧品もあり、どうしても顔湯をやってみたくなりました。

はて、どこに顔湯があるのやら、と足湯につかりながら周囲を見渡すと足湯の端っこに四角い木箱があり、「今日も元気 温泉卵 ¥100 美味~い」「危険 持ち込み禁止 熱泉注意80℃」と書いてありました。

この木箱の中に温泉卵があるようですが、顔湯はどうも見当たりません。先ほどもらったパンフレットに載っている「顔湯」の写真をよく見てみると、この温泉卵の木箱に、なんだかとっても似ています。


地炉のおかあさんに声をかけて卵を1つ100円で購入し、顔湯はどこかを聞くと『熱いから気をつけてね。』と温泉卵が入っていた四角い木箱の蓋を開けてくれました。熱泉80℃、もやっとした湯気もかなりの温度なのでやけどをしないように顔を近づけてみます。 ん、なんか肌が喜んでいるような気がします。
週末だけオープンしている地炉は、飲食店や売店ではなくお休み処なので販売などはありません。持参したペットボトルの飲み物と卵を食べて地域のお母さんと松之山の話などをしながら、しばし休憩します。
居心地がよくてこのまま長居をしてしまいそうなので、意を決して玄関へ。靴を履いて歩きだしふと見上げると、不動滝と黒い大きな牛の形をした黒い看板が現れました。迫ってくるような感じです。
スペインのシェリーブランド、オズボーンの広告でありながら大地の芸術祭の作品のひとつとして2018年に設置された看板“ブラックシンボル”だそうで、圧倒的な存在感を示している高さ10mの巨大看板。

PRするべき文字は何も書いていないので、ぱっと見は企業広告とは思えません。こちらも、先ほどもらったパンフレットに「3大パワースポット」として紹介されていました。

ブラックシンボルをすぎると赤いのぼりに誘われるように階段があり、その上には薬師堂が顔を出します。ここは小正月の伝統行事、越後の奇祭と呼ばれる“むこ投げ、すみ塗り”が行われる場所です。むこ投げとは前年に結婚した婿を薬師堂の前から下に投げ落とすもので、「むこを投げる」と聞くと非常に危険ではないかと思われますが、雪がクッションになっているため怪我をすることはないようです。

今年のむこ投げを見に来ていた私は、『さっきの地炉でお神酒を飲んで勢いをつけた婿を騎馬戦の大将のように担いで薬師堂まで登り、放りなげるんだよ。雪の中担ぐみんなも大変なんだよ』 などとしたり顔で話してみたりしました。
こちらの本尊は薬師如来で古くから温泉療法の地として活用されてきた松之山温泉の泉質の良さがしのばれます。
今年のむこ投げ・すみ塗りの様子はこちらのニイガタドライブ過去記事をご覧ください。
ニイガタドライブ:奇祭“むこ投げ・すみ塗り”を見に、『日本三大薬湯 松之山温泉』へ。
散策して休憩して、卵を食べただけですがお腹が空いてきました。とある温泉旅館の前で母が佇んでおり、掲げられていたタペストリーをじっくり読み込んでいました。
温泉&ランチ(温泉+ハンドタオル+お食事=1800円より)
『あら、泊まらなくても温泉に入ったりゆっくり食事ができるなんていいわね』 という一言のあと、吸い込まれるように温泉旅館 ひなの宿ちとせのフロントへ。
受付をして食事処がある2階へ行くと、個室風のお部屋に案内されました。美雪マスと鱒子丼、ステーキ定食やにいがた和牛100%牛すじ煮丼定食など美味しそうなメニューの中から悩みに悩んでネーミングの可愛いご当地豚を使った献立を選んでみました。
「湯治豚重定食 1500円」
ご当地ブランドの妻有ポークを松之山温泉の熱で調理した豚肉。ボイルドポークなどではなく、湯治豚。『ぱっと見、脂身が多いような気がするけれど旨味のある脂で口の中でふわりと溶ける感じね』と喜ぶ母。スイーツも食べて上機嫌です。

『豚さんも温泉に入ったのだから、私たちも温泉に入りましょう』と日本三大薬湯として知られる温泉へ。温泉ソムリエであり温泉入浴指導員の私としては、食後30分の入浴は避けたかったので、食事処で少しゆっくりしました。 ひなの宿ちとせでは通常700円で宿泊しなくても日帰りで入浴だけできますが、ランチを利用すると500円で入浴可能です。

足湯も顔湯も気持ちよかったですが、時間があるのであれば温泉に浸かるのもいいですね。
松之山温泉にはこのほかにも足湯や日帰り温泉、日帰り温泉を行っている温泉旅館などがありどこに行こうか楽しく迷ってしまいます。また、近くには美人林や美しい棚田もあり、絶景の中をドライブしながら秋の一日を過ごしたのは贅沢な時間の使い方だと思いました。
『次、いつくる?』 駐車場から少しだけ散策して身体も動かし、美味しいものを食べたり温泉に入ったりしてすっかりご機嫌な母。パワースポットで良い気をもらってきたようです。 冬もまた風情あってよいから行こうねと言ったら、寒がりの母はなんというでしょう。 湯気や人情もあったかで、また来たいわねと言いそうです。