妄想旅人、南雲です。毎月「こんな人がこんな人と一緒に、こういった想いでドライブしている」という
イメージでドライブをしていく妄想シリーズを展開しております。
今回は、久しぶりにFacebookでつながった関東に住む高校時代の部活の後輩をローカル線の大沢駅で
ピックアップして南魚沼を旅する、というお話。
普段なら「時間がないから会えない」と思う友人との時間も、高速道路を使うことで時間が短縮されて時間を作れるよ、という話でもあります。
*今回はモデル入りでの紹介ですが、写真の人物とこの妄想旅は全く繋がりがないフィクションですのでご了承くださいませ。
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「急なんですけれど来週の月曜日空いてます?」久しぶりに関東で暮らす高校時代の後輩から連絡があった。
小出に住んでフリーランスで仕事をしている私は比較的時間が自由になるので午後ならなんとかなるかな、
と伝えるとその日新潟に行きたいから会えないか、という。しかも、雪景色が見たい、と。
雪が見たいなら新幹線が停まる越後湯沢駅か浦佐駅まで迎えに行くよと伝えると、ちょっとローカル線にも乗ってみたいんですよね。というので、小出から高速で向かい、塩沢ICでおりて大沢駅で待つことにした。
・・・当日、JR上越線 大沢駅・・・
駅の入り口には雪が積もっていたので、車を少し離れた所に停め、駅まで歩いて彼女が到着する列車を待った。
歩道橋を駆け上がり、駆け下り、白い息をはきながら『いや~、ドアが手動なんてすっかり忘れてました。
流れる景色に見とれていたら降りるのを忘れそうでした。あはは。』と言いながら、無造作に束ねた花束を差し出した。

「雪国に住んでいると、白一色でしょうから、たまに春色カラフルなものもいいかなと思って。」
そういって助手席に乗り込むと、ナビに目的地を入れ「ここに連れてってくださいよ、先輩」と、
いたずらっ子のように微笑んだ。この笑顔で甘えられたら叶えてあげたいと思ってしまう。
「10年位前かな?NHK大河ドラマ天地人で、ここが舞台になりましたよね。
子役の加藤清史郎くんが“わしは、こんなとこ来とうは無かった”みたいなセリフがすっごく印象的で。
あれから、ずっと行ってみたいと思いつつなかなか来れてなくて。今日は思い切ってきちゃいました。」と、言ったかと思うと
懐かしそうに車窓を眺めては黒とシルバーのボディにダイヤル式のレトロ可愛いカメラを
バッグから取り出して写真を撮り始めた。ナビが周辺に到着したことを告げる最終案内をして、
車が停まったとたんに待ちきれなかったかのように、元気よくドアをあけ駐車場にうっすら積もる雪の上に降り立った。

「長靴じゃないんだから、滑るから気を付けて」という私に、「住んでいるときは、雪邪魔だなと思っていたんですけど、
離れてみると雪に包まれたくなりますね」と子どものように雪を投げたりつららを触ったりしてははしゃいでいる。
私は仕事の関係でこの地を離れたが、新潟県内に住んでいるので冬になると雪が降る。
それが当たり前の世界だったから、彼女のはしゃぎ方が少し可笑しかった。
本堂入り口にて参拝料300円を支払い、中へ。お寺の床の木は、ひんやりと冷たかった。
雪が降っているのに、至る所の窓が開いている。冷気を帯びた冬の空気が寺内を包む。
でも、不思議に寒すぎない。時折立ち止まり、ふ~っと吐き出す息の白さを見つめていたり、小さな穴から外を眺めてみたり、
彼女は愛おしそうに、少し切なそうに冬景色を見つめている。

その表情は外気に触れて張り詰めたようで、でもうっすらと上がった口角からは温かさとか優しさを醸し出していて、
いつも以上に美しくて引き込まれてしまった。
高校生の頃からキレイな子だったが、大人になって深みのある美しい女性になったなと、私もカメラを取り出して彼女の横顔ばかりを連写した。

見惚れてぼ~っとしている私に、「次、行きますよ。」とスタスタ歩き出したと思うとある一角に立ち止まり引き戸に隠れてカメラと顔だけをひょっこり出した。

「うわ、この廊下、小学校思い出しますね。」とつぶやきながら畳の椅子に私を誘うと、雪が降ったりやんだりを繰り返す冬独特な空を見つめた。

窓越しの雪景色をしばらく眺めてから立ち上がり、長い廊下の先に階段を見つけてひょいひょいと上った。
彼女はスタイルが良いので動きも身軽だ。私はよいしょと立ち上がり、ついていく。
7段ほどの階段の先には、美しい雪景色がまた広がっていた。雪に包まれた庭園は身震いするほど美しい。
彼女はひんやりとした冷気を笑顔で吸い込みながら、五感をフルに使って雪が醸すこの澄んだ空気を吸収しているようだ。

そして、座禅ができる場所へ。 「ここ、大河ドラマで見ました。」ちょっと座禅組んでみてもいいですか?。 さっきまではしゃいでいた二人は座禅を組み・・・いや、正座をして瞼を閉じた。
ご住職はその場にいないので、肩を棒でたたかれることもなかった。
私たちの他に誰もいない座禅場、周りの音も雪に包まれて数分の静寂は、ひたすら自分へと向き合う時間だった。

あっという間に、1時間以上は経っていた。この日はまるまる一日時間があいていたわけではなかったので、
帰るよと促し、出口へ向かった。おみくじをみつけた彼女は、はにかみながらおみくじを購入し、
真剣に読み込んでいた。
「頑張れば、叶う」というような文言が書かれた小さな紙をのぞき込むと小吉だった。
この前テレビで見たけれど、大吉とかいいやつ以外は結んで行った方がいいらしいよ。という私の話を
さらりと聞き流し、大切そうに財布にしまった。

「今日、実はちょっと悩んでいることがあったんですよ。で、話を聞いてもらいたかったんですが、顔見ておしゃべりしたり、
雪景色をみたり、空気に触れたり、座禅したりしたら、うん、すっきりした。
私また頑張りますね。 ドラマの中で清史郎くんが“こんなところ、来とうはなかった”って、言ってましたけど、私、今日来てよかったです。ほんと、ありがとうございました。」と言った。
数日後、彼女からメッセージが届いた。
「仕事で日本を離れることになりました。しばらく帰ってこれないので受けるかどうするか、
少し悩んでいました。でも挑戦してみることに決めました。冬のない国なので、雪景色見たかったんです。
付き合ってくれてありがとうございました。」
雪景色を愛おしそうに眺めていたのも、頑張れば叶うというおみくじを持ち帰ったのも、
そういうことだったんだ。ちょっとバタバタしたけど、高速乗って彼女に会いに行って良かった。
彼女が日本に帰ってきたら、またどこかにドライブに行こう。今度は、ゆっくり時間をとって。