妄想旅人、南雲です。毎月「こんな人がこんな人と一緒に、こういった想いでドライブしている」というイメージでドライブをしていく妄想シリーズを展開しております。
今回は、春休みで帰省していた都会で一人暮らし・学生生活を謳歌している息子を誘ってお出かけしたいと企む母の妄想です。
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自宅、ダイニングでの会話。
母「大地の芸術祭、秋に行ってきたよね。清津峡のトンネルは行ったっけ?」
子「行ってないんだよね、友達のTwitterやインスタのアイコンがけっこうそこの写真でさ、行きたかったんだけど。」
母「え?行きたい? 実は、冬季クローズなんだけど今年は雪が少ないからか3月からオープンなんだって。行ってみる?」
大地の芸術祭の話題をきっかけに、息子を誘うことに成功。
出発は昼を過ぎていたため、まずはランチ。
山の中のレストラン、イ’ヒロッシェ。山の中といっても、玄関前の駐車場まで車で楽々行ける。
ここで、一緒に食べたかったのが“シェアランチ”。パスタもピザも、ドルチェも、そして食前酒もついている。
まずは、食前酒を・・・と言っても私は運転、息子は19歳、なのでノンアルなスパークリング。

子「今回はさ、カメラ持ってきたんだ。料理写真は普段あまり撮らないんだけれど。」
彼が手にしているカメラは5年程前に私が買ったNikonのエントリーモデルで、彼が高校で写真部に入ったのをきっかけに彼に譲ったものだ。教えたことも一緒に撮影に行ったことも特になかったが写真甲子園に出場したり、新潟県の学生700人が集まった写真合宿でTOP3に選ばれたり、全国大会に出場したりと、数々の賞をいただいてきた。
そのどれもが、人物、とくに子どもを写したものだった。 技術的な知識はほとんど持っていないと思うのだが、子どものキラキラとした目の輝きや、無邪気な表情をとらえるのが得意なようだ。私は人物写真が下手なので彼の感性は面白いと思っていた。
写真談義をしているうちに、最初の料理が運ばれてきた。
子「お~、サラダ。お皿なんだろ、なんの形だろう。インスタ映えなやつだね。やっぱり上からかな。」
と言ってカメラを上に構える。

料理写真を撮る息子を隠し撮りしながら
母「ねえ、TwitterとかInstagram、教えてよ」と聞いてみた。
離れて暮らす息子の日常が知りたいのだ。
我ながら、うざったい母親だよな、と思う。 思うけど、構いたいのだ。
子「え~、なんか・・・見られるの、嫌じゃね?」教えてくれない息子。
そりゃそうだ。自分がまだ子供で、父親からこんなことを言われたら速攻「無理!」って断るな。 と思いつつ、自分を慰めるようにパリパリしたチーズの触感が楽しいスープを口に運ぶ。

シェアランチのメニューは、
・スパークリングワイン または ノンアル
・サラダ
・スープ
・シェフおまかせピザ
・シェフおまかせパスタ
・ドルチェ
・飲み物
水の入ったボトルを持ってきてくれたマダムに、「おまかせって、今日のパスタやピザは何ですか?」と聞いてみた。
今日の日替わりメニューみたいなものだと思っていたからだ。
マダムは微笑みながら、「わからないんですよ、本当にその時その時で違うので。 苦手な食材とかご要望はありますか。」
昭和の頃、おしゃれなレストランで流行った「シェフのきまぐれ〇〇〇」が頭をよぎった。
いえ、何が出てくるかわからない楽しみもありますので。と、闇鍋(失礼!)のようなワクワク感で料理が出てくるのを待った。
ピザはシェフが直接運んでくれた。
シェフ「ピザは、ホホ肉の生ハムと大崎菜、こちらはトマトとモッツァレラチーズです。」 ハーフ&ハーフだったので2種類のピザを楽しむことができた。

なかなか、ピザには使わない伝統野菜の大崎菜がトッピングされていたことに驚いた。
このお店は、シェフの故郷“入広瀬(いりひろせ)” と、シェフの名前(ひろし)にかけて名づけられている。
看板の I’Hirosshe にはちょっとした遊び心が隠されており、イ・ヒロッシェ だが、 イリヒロッシェ にも見える。
そんな地元を愛してやまないシェフは、グルテンフリーの米粉パスタにも愛・魚沼人という名前を付けた。
アイウォンチューと読むらしい。愛は、10年前に放送されたNHK大河ドラマ天地人の主人公、直江兼続公の兜の前立てに描かれた“愛”にもちなんでいる。
なので、食材にももちろんこだわる。
大崎菜、だ。大崎菜は小松菜の一種だが、苦みがより強い。しかし噛めば噛むほど甘みも出てくる。春の味覚のひとつ。
続けて、魚沼のきのこのオイルソースが登場する。トマトソース、濃厚なチーズ、そしてきのこの香りを閉じ込めたオイルのソース。
どちらも美味しい。

そして3種のドルチェ。
爽やかな柑橘シャーベット、まったり広がるショコラムース、バナナのケーキ。

ねえねえ、今年はバレンタインにチョコレートをもらったの? と聞きたい気持ちを抑えて、ムースがのったスプーンを口へ運ぶ。聞きたいことは聞けなかったが口の中には幸せなチョコレートの香りが広がった。
食事を堪能し、席を立とうとしたところ薪ストーブに気が付いた。

このところ春の陽気が続いていたが、突然冬に逆戻りしたようなみぞれ降る南魚沼。薪ストーブの直火の揺れと温かさが心地よかった。
子「あ、そういえばさ、こっちの車学(自動車学校のこの地域の呼び方)の合宿で車の免許取ろうと思うんだ。そしたら早くて安いしさ、たまに家にご飯食べに行くから、よろしくね。」
お腹がいっぱいでも、いつかのご飯が心配な息子をやっぱり愛おしいと思ってしまう。完璧な親ばかである。
続いて、目的地、清津峡へ。トンネルの入り口にあったエントランス施設の足湯やカフェはクローズしていたけれど、トンネルは3月1日からOPENだった。入場料ひとり600円を支払い、中へ。第一見晴所、第二見晴所はとりあえず後からで、まず一番奥のパノラマステーション ライトケーブへ向かう。
全長750mのトンネルを歩き、パノラマステーションに到着。三脚をたてて準備していると、息子がいう。
子「思ったより、寒いね。風も出ているからリフレクションが波立ってあまりキレイじゃない。」
う~ん、それでもせっかく来たのだからとカメラを構え、水の向こう側に行ってちょっと歩いてみてよ。とモデルの依頼をしてみた。

写真部で撮ったり撮られたりをしていたおかげか、向けられたカメラも嫌がらずに歩く。
母「じゃあさ、今度、私撮ってよ。 飛んだり跳ねたりするから、ちゃんと撮ってね。」
子「そっちのカメラ貸して。」 なぜか持ってきた自分のカメラではなく、私のカメラで撮るという。 私はSONYを使っているので慣れていなくて使いずらいだろうと思いきや、楽しそうに設定を動かしている。

いつもハイテンションな母は、久しぶりの息子とのドライブデート、あ、デートというと嫌がられるのだが、ドライブに浮かれていていつも以上に飛んだり跳ねたりしていた。赤い靴を履いていた息子に対して、赤い傘を持って。あまりに浮かれていたので空をも飛べそうな勢いだった。
子「今日、薄着で来ちゃったから寒い。帰るよ。」
母「第三展望台の赤い丸い鏡がいっぱいあるようなところ、写真に撮らないの?」
子「う~ん、ちょっと、ジブリ映画の・・・オウムっぽくて。」
母「そうだった。小さいころ、結構怖がりで映画とかDVDも登場するキャラが怖いから見れないこととか、結構あったんだった。 そうそう、保育園のときは、節分の鬼が怖くてお休みしたっけな。そういえば母の日に虹色のドレスをきた“お母さんのイラスト”とカラフルなストローで作ったネックレスくれたっけ。懐かしい!」
子「あれはさ、お母さんの好きな色を聞いてきなさいって前の日に言われていたんだけど、聞き忘れちゃって。だから全部の色塗ったんだよね。」
母「え~、そうだったんだ。 いや~、なんか懐かしい話聞けちゃった。」

母「第2展望台に面白いトイレあるよ。入ってみなよ。」
子「あ~、なんか落ち着かなかった。」
母「近未来のトイレ、って感じだよね。」

750m歩き終えて外に出ると大粒の雪が降ってきた。さっきまでみぞれだったのに、雪に変わっていた。

750mのトンネルは、私たち二人を乗せた過去にも未来にも行けるタイムトンネルのようだった。
そして、季節もまた春から冬に戻っていた。あと何回、冬と春をいったりきたりしたら、本当の春がやってくるのであろう。
春を待たずに、息子はすぐに東京に帰ってしまうけれど、また折を見て写真を撮りに行きたいなと思う。

今度ここに来るときは、免許をとったばかりの息子が運転してくれるかしら・・・と楽しい妄想を膨らませながら家路についた。