新潟の冬は雪が降るので「ドライブと言っても…、どこに行こうかな?」と考えているとき「暑い国には暑いとき行け、寒い国には寒いときに行け」という言葉が降ってきて、頭に浮かんだのが十日町市。
関越自動車道を越後川口ICで下り、国道117号線を40分ほど走り「越後妻有里山現代美術館MonET」に到着。
すっかりおなじみになった「大地の芸術祭」の里の中心施設です。

実は十日町を中心とした越後妻有地域では1月14日から3月12日まで『「大地の芸術祭」の里 越後妻有2023冬SNOWART』が開かれています。
MonETでも企画展「越後妻有 雪の様相Ⅰ」が開催中です。MonET中央の池は真っ白な雪原に変身。
そこには無数の鏡のようなフィルムがつり下がっている3つの巨大な円筒。風が吹くとその鏡がいろいろな方向に揺らぎ表情を変えていきます。おもしろい!
「中に入って天を見るのがおすすめですよ」と広報の森希紗さん。
中に入って見上げてみると…キラキラひかるフィルムのむこうに丸く切り取られた空。なんだか空に上昇していくような感覚を覚えました。

写真=「Particlecs-粒子たち―」加藤ユウ
この日はあいにくの曇りでしたが「晴れた日は反射した光が雪面を踊るようできれいですよ。土日は午後6時までライトアップしているのでそちらもおすすめです」と森さん。
また、MonETでは期間中の土日は、昔の除雪道具「コスキ」を使ったこの地域に伝わる小正月行事「ハネッケーシ」(羽根つき)を楽しむこともできるそう。
またMonETから10キロほど離れたまつだい「農舞台」フィールドミュージアム周辺では、雪上アートや雪上バナナボートが楽しめる「里山雪の遊園地~白い雪原に一瞬だけ遊園地が現れる⁉~
」(有料)なども楽しそうです。森さんが所属し、今シーズンから北信越女子サッカー1部リーグで闘うサッカーチーム「FC越後妻有」の選手たちによる体操教室(500円、詳細はHP参照)など盛りだくさん。

このプログラムは共通チケット(一般2,000円、小中800円)を購入して、MonETはじめ、雪のない時期とは一味違った最後の教室」や、割引のある「清津峡トンネル」を見るのもいいかもしれません。
越後妻有里山現代美術館MonET
住所/十日町市本町6-1-71-2
電話番号/025-761-7767
営業時間/10:00~17:00(最終入館16:30)
定休日/火・水曜日
駐車場/あり
https://www.echigo-tsumari.jp/
さて次はMonETに隣接する道の駅「クロステン」へ。こちらでは、地元の名産品などのほか、ちょっと面白い服が売っているそう。
それがこれ!山菜パーカー(税込み4600円)

リアルにコゴメ、ウドにミョウガが“描かれた”パーカー(4,600円)やTシャツ(2500円~)などアパレルのほかトートバッグ(1,200円~)もあります。お店の人曰く「好評で季節に関係なく売れています」。
これらはすべて十日町市の広告会社「サンタ・クリエイト」が制作・販売しているそうです。会社の代表山田努さんがちょうどいらしたのでお話を伺うと「私はプロカメラマンで、天然の山菜を撮影してプリントしたものなんです」。リアルなのにうなずけました。
山田さんは山菜採りが大好きで、ある時、採り立ての山菜の美しさに気づき撮影。
「デザイン的な面白さもある」と感じ、Tシャツにプリントして着ていたところ周囲の人たちも「いいね」と言ってくれたので、試しに自身のSNSで販売を始めたところ大好評。県内はもとより県外にまで「着る山菜」は拡散したそうです。
2年ほど前にはアイドルグループ「乃木坂46」のメンバーがブログで紹介してくれたり、十日町市出身で東京五輪のマラソン選手の服部勇馬選手が着てくれたりで、販路も拡大し県内や県外にも取扱店があるそうで、もはや十日町の“特産品”です。
「雪が降って四季のはっきりした十日町は、鮮度が良く多品種の山菜が採れるからこそです。よそではまねできないと思いますよ」と山田さんは話してくれました。

道の駅 クロステン
住所/十日町市本町6-1-71-26
電話番号/025-757-2323
営業時間/09:00~17:30
定休日/第二水曜日
駐車場/あり
サンタ・クリエイト
お次は車で3分ほど走り「十日町市博物館」へ。
ここには新潟県で唯一「国宝」に指定された「火焔型土器」を見ることができます。子どものころ教科書で見てその不思議で美しい形に魅せられて「いつかは本物を見たい」とおもっていたのでワクワクします。

館内の常設展示室は「雪と信濃川」「織物の歴史」、そして「縄文時代と火焔型土器のクニ」と3つに分かれています。
はやる心を抑えて十日町市とその近郊から出土した縄文時代の土器を見ていきます。
火焔型土器は今から5000年前の縄文時代中期のものだそうです。そして火焔型土器は東日本に多いけれど、そのほとんどが新潟県から出土していることを初めて知りました。

いよいよ、あこがれの「火焔型土器1号」とご対面です。
国宝展示室中央に置かれた土器は抜群の存在感。水の波紋にも見える渦巻、燃える炎のような突起…神々しいほどの美しさと不思議さを感じます。
芸術家の故岡本太郎さんが「なんだ、これは!」と叫んだというのがうなずけます。
造形美もそうですが5000年という長い時間と、多くが残っている状態で発掘されたという不思議さなどを思いつつ。長い時間見つめていました。

館によると、国宝の火焔型土器は57点あり、展示期間が180日と決められているそうです。1号を見ることができたのはラッキーでした。
国宝にはもちろん触れられませんが、重さも形も同じレプリカは触れるので、縄文人の感性に触れられます。

十日町市博物館
住所/十日町市西本町1-448-9
電話/025-757-5531
休館日/月曜日(祝日の場合は翌平日)、火曜日(1月~3月)※3月20日・21日は開館
入館料/一般500円、中学生以下無料
https://www.tokamachi-museum.jp/
さて、お腹がすいたのでランチを食べにー。目指すは国道117号沿いにある「十日町産業文化発信館 いこて」。
半円型の印象的な建物も「大地の芸術祭2015」の時の作品の一つで、雪が積もると「かまくら」のようになるそうです。

写真=手塚貴晴+手塚由比「十日町産業文化発信館いこて」
店内は木をいかしたぬくもりを感じる上に広々とした素敵な空間です。
「食材で十日町の文化を発信する」というコンセプトのもと、和食やパスタ、カレーなどの食事を楽しめます。
「みそとしょう油は市内の高長醸造場さん、米は契約者農家さん。野菜も妻有地域の農家さんのものを使っています。この地域に伝わる郷土食も提供しています」と店長の根津真理さん。顔の見える食材ばかりなんですねー。

「十日町おそうざい定食」(1,300円)を注文しました。
高長醸造所の「しょう油の実」で味付けした鳥の唐揚げ、お魚の南蛮みそ、妻有ポークのローストなどなかなかの品ぞろえ。
当然ながらご飯もおいしい唐揚げはコクがあります。魚の南蛮漬けも優しい味でとてもうれしい。
しかもご飯はお代わりできるから思いっきり食べられます。

十日町産業文化発信館「いこて」
住所/十日町市本町5-39-6
電話/025-755-5595
営業時間/11:00~17:00(ランチは14:00L.O)
17:00~22:00(21:00L.O 水・日曜日休)
定休日/月曜日
十日町は「着物の街」としても有名。
着物制作の見学や、それにちなんだ体験ができないかと事前に調べたら、創業85年の「株式会社青柳」で見学(3,000円~5,000円)ができて、絞り染めと友禅描きの体験(ともに5,000円)ができるので申し込みをしておきました。
青柳は「桶絞り染め」という技法が特徴だとのこと。
これは絞りの部分以外を桶の中にいれて染める技術で、ガイドの田辺浩一さんによれば「江戸時代に生まれた友禅染めより歴史は古い」とのこと。

応接室に飾ってある見事な振袖を見ても、どこがそうなのか分かりません。
ガイドの田辺浩一さんが「ここがそうです」と指さしてくれました。
赤に染めた部分の輪郭が白地に接している部分がきっちりと分かれず、若干にじみ出る感じで離れてみると何とも言えない柔らかさがあります。
そして工房見学。
まずは型紙で友禅染を行う「板場」です。広い作業場には何列にも生地が並び、数人の職人さんが型紙を使ってその生地へ絵模様の線や色を付けていきます。
「振袖の生地は長さ16メートル、訪問着などは13メ-トルの生地が必要です」。色は何色使うんですか?「一柄に20色くらいで、型紙は300枚以上使います」と田辺さん。

続いて手描き友禅へ。今度は10畳ほどの部屋で、女性が黙々と筆を走らせ絵模様に色を挿していきます。
花の陰影部分は太い筆から小さな刷毛に色を移して柔らかなぼかしを入れていきます。

さていよいよ青柳が得意とする「桶絞り染め」です。
職人さんが指定されたラインに合わせて絞った生地を桶の縁に針で固定していきます。染めない部分は桶の中に入れます。

染料の中へ職人さんが桶を入れます。
染料の温度は90度以上なので二重にした専用の手袋に水を入れて、何度も染料の中で桶を回します。
湧き上がる湯気が迫力満点!こダイナミックな作業から美しい着物が生まれるとは!
「染物は水をたくさん使いますが、いい水でなくてはダメ。十日町に降るたくさんの雪が水の源になります」と田辺さん。

さて私も絞り染め体験。
糸で花が形付けられたハンカチの花びらの糸をギュッと引っ張り、巻いてツノのようにしていくのですが、不器用な私にはなかなか難しい!
田辺さんは「糸を巻く回数が多いと真っ白になって面白味が少なくなります」と言いますが、そんな余裕はなく絞る糸を巻くのに必死です。

なんとか絞り終え、次は染色。
職人さんと同じく専用手袋に水を入れて、絞り終えたハンカチを染料の中にザブン!前後左右に動かしたり、ひっくり返したりするうちに水を入れたとは言え、90度近い染料の中ですから次第に手袋の中が熱くなってきました。
手袋の水を入れ替えて再び染色へ。それから3分ほどして「はい。もう大丈夫です」と田辺さん。

なんとか完成!初めての絞り染めでしたが、なかなかではないですか(自画自賛)。

最後に工房に若い人が多いと思ったので、田辺さんに尋ねると「着物を作りたい」という人が京都などの有名産地へ行っても、工程別に小規模な会社が多いので雇うのは難しいのだとか。
その点十日町では自社一貫生産の工場が多いので、若い人を比較的受け入れやすいのだそうです。
一貫生産になったのも「分業しても冬場は豪雪で、反物の運搬が大変だったからでしょうね」。
十日町はやはり雪が生活に根差した街ということを実感した旅でした。
株式会社青柳
本店/十日町市栄町26-6
工房/十日町市明石町18
電話/025-757-2171
休業日/土、日、祝日